現場改善の落とし穴

多くの製造業が、生産性を向上させるために現場改善に取り組んでおられると思います。一部の部門で改善に取り組むのと、全ての部門が改善に取り組むのとでは、どちらが生産性向上に寄与するのでしょうか? 全ての部門が自部門の改善に取り組むと思わぬ弊害を生む可能性があります。

企業が行う業務は個別には存在せず、ほとんどが他の業務とつながっています。そしてそれぞれの業務の能力(リソース)にはばらつきがあります。既に能力の高い工程が改善を行うとどうなるでしょうか? その工程で生み出されたアウトプットが後工程の能力の低い工程に押し寄せ、処理しきれなくなります。仕掛かり業務が溜まり却って悪影響を与えてしまいます。みんながんばっているのになぜ成果が出ないのか? その原因がここにあります。

一方、最も能力の低い制約工程が改善を行うとどうなるでしょうか? 制約工程で生み出された成果は、単に制約工程の利益にとどまりません。会社全体の利益を押し上げます。すなわち、制約工程の算出アウトプットは会社全体の算出アウトプットに等しいのです。このように、「つながり」と「ばらつき」のあるプロセスにおいては、制約に集中して改善を行うのが正解なのです。部分最適の総和は必ずしも全体最適にはなりません。

 

それでは、成果の出る改善はどのように進めていけばいいのでしょうか? TOCTheory of Constraint 制約理論)では、次のようなステップで改善を進めていくのが効果的とされています。

ステップ1.制約を見つける

業務プロセスの中で最も能力の低い業務を見つけます。生産ラインの場合はボトルネック工程になります。仕掛在庫が溜まっている工程がボトルネックの可能性が高いです。

ステップ2.制約を徹底的に活用する

制約工程を徹底的に活用します。制約工程が手待ちにならないように、今ある設備や作業者の持っている能力をフル回転するようにします。

ステップ3.制約以外を制約に従わせる

制約工程の生産状況に合わせて材料を投入したり、仕事を回したりします。非制約工程に余裕があるからといって、ドンドン作業を進めてしまうと、制約工程が目詰まりしてしまいます。余裕のある能力を可能ならば制約工程のために使う、すなわち、非制約工程が制約工程を助ければいいのです。

ステップ4.制約を強化する

 このステップでは、設備増強や人員採用などのお金を使う対策を含んだ、能力増強対策を行います。ただし、このステップはステップ3までを徹底的に行っても、顧客の要求を満足できない場合に実施します。そのため、今の需要状況だけでなく将来の需要状況までを考慮し、対策の実施を考える必要があります。

ステップ5.制約の変化を監視し、ステップ1へ

ステップ4で制約工程の能力を向上させたので、制約工程がどのように変化したかを監視します。制約工程でなくなったことがわかれば、ステップ1に戻り、改善の5ステップを繰り返します。

 

このプロセスを何周か回すと、制約が移動する度に業務プロセス全体(あるいは生産ライン全体)が大幅に改善し、大きな余剰能力が生まれるはずです。そうすると、組織パフォーマンスを制限する制約は、人や設備能力の不足といった物理的な制約から、市場の需要(市場制約)や運用方針(方針制約)といった非物理的な制約に変わります。

ご質問はこちらへどうぞ

e&i経営研究所

■メールアドレス

  takano_k@m3.kcn.ne.jp 
■代表者    

  高野 淨(たかの きよし)
■事業内容 

  経営相談    

  コンサルティング
  セミナー・研修・教育
  調査・研究

お気軽にご相談ください